弁護団長 弁護士 河村 武信
この裁判の結審にあたって,一言申し上げたいと存じます。
まっ先に申し上げたいことは,本件原告らに対して会社の行った配転命令は,どう
見ても,どこから見ても,その矩をこえており,違法で無効であるということ,そ
れをこえて不法行為を構成するということであります。
本件配転命令は、被告のリストラ計画の中心的な施策であるOS会社への転籍・
再雇用に応じなかった者に対し、「60歳満了型」なる雇用型態を選択したものと
被告が一方的にみなして、遠隔地・異職種配転を強行したものであるが、本人の同
意もなく一方的に命じられた本件配転命令は、非人道的な内容となっており、使用
者が被用者に対して命じ得る労働契約上の限界を大きく逸脱するもので、到底許容
されるものではない。本件配転命令の法令違反や手続違背を論ずる以前に、それは
労働者の基本的人権を侵害し、全ての契約を通じて認められる理念である信義誠実
の原則に反すると言わざるをえません。
労働契約の特質は,何を措いても生身の人間・労働者が会社に対して,労務を提
供するところにあり,経済的,人的従属性を属性とする契約関係であることは言う
までもありません。しかし,そうであるが故に,契約の相手方である会社は,労働
者が人間の尊厳にふさわしく生存する権利と,人が公正且つ良好な労働条件を享有
する労働の権利,そして,そもそも「労働」が人間の自己実現,人格の形成,社会
参加という意義をもつことを,労使関係の場で保障することが求められるのであり
ます。本件配転命令は,この契約上の規範に反するものであります。
第2に申したいことは,被告は一介の私企業ではない。政府が46%出資し、通
信・情報産業を担う公共性の極めて高い巨大な企業である。その社会的影響力、負
っている社会的責任からみて、法を僣脱し、脱法的手段を弄した、手段を選ばない
「利益の最大化」の追求は許されるべきではない。あらゆる施策においても労働者
を遇する上においても、いやしくも企業倫理にかなった襟度を保つべきである。し
かるに、本件原告らに対する配転命令は、あろうことか、被告の11万人リストラ
の措置の違法・脱法を重ねる醜悪な手法を端的に象徴し、そのスキームの構造的違
法・脱法をあからさまに示すところとなっている。
被告は、本件リストラ計画の目的が「NTTグループの利益最大化のための人員
配置」、「地場賃金並に切り下げることが、今回のアウトソーシング、退職・移籍
のメリット」であると公言してはばかりません。しかし、そのための、労働条件の
一方的不利益変更禁止の法理や、労働契約承継上の会社分割に伴う不利益変更禁止
を僣脱する施策が、アウトソーシングと退職・移籍をセットとすることを核心とす
る11万人合理化計画である。計画そのものの目的のもつ反社会性が指摘される。
それは措くとしても,原告らに対する個々の配転の業務上の必要性は全くありま
せん。被告の各原告についての配転に関する業務上の必要性に関する主張は、具体
的には何も明らかにされていないというに均しいものです。必要性をこじつけたり、
捏造したりするものの、原告らが従事させられた配転先での「業務」の実態をみれ
ば、業務上の必要性のないことは一見して明らかというべきであります。原告らに
通常甘受すべき不利益を著しく超える不利益をことさらに負わせるもので,業務上
の必要性のなさと不利益性の大きさ、そして法令違背の要素を考慮すれば、そこに
は害意、ないしは通信労組員であり本件リストラ計画に反対し退職・転籍に応じな
かったが故に命じられた配転命令という違法・不法性を見出さざるをえないのであ
ります。それは,無効であることをこえて,故意に原告らの人格権を損ない,人間
としての尊厳を侵す不法行為を構成するものであります。
第3に強調したいのは,被告の11万人リストラの主題は、51歳以上の者の企
業からの排除により、相対的に高い賃金の労働者をなくし、人件費の抑制をはかる
点にある。
51歳以上の者は、すべて年齢が51歳以上であることの故をもって、その意に
反して「退職・再雇用」か異職種、遠隔地に配転されております。これは年齢によ
る不合理な差別であり、これ自体が憲法14条1項、民法90条、労基法3条に反
するものであります。しかも、それが継続的に、毎年51歳以上の者に対して繰り
返しこの措置がとられるのであるから,これは実質的に50歳定年制を定めるに均
しい。定年が延長される趨勢にあるなかで、被告の措置は反社会的であり、高年齢
者等雇用安定法に反する違法な措置である。
高年齢労働者の労働権・平等権の保障、年齢差別の不合理性は、中高年労働者の
人権、その人間性の尊重、ヒューマニティの理念が深められた結果、現今の国際労
働公準となっている。それが国内の公序をも形成し、民法1条、90条を介して,
その判断にも影響するものであることは多言を要しないところである。
被告の本件原告らに対する配転命令が,残酷で非道なものとなっている要因の一
つは,この年令差別に起因しています。
定年に近い原告ら高齢者に対する異職種、遠隔地配転である本件配転は、同時に
各原告の妻が原告と共働きをしていることなどから、多くが単身赴任とならざるを
えない。その結果として、妻、老父母が、入院したりして苦しんでいても、これを
看病し介護することもできない。単身赴任を余儀なくされた原告らもまた、精神的
負担や無理な生活からもたらされる疲労と心労から健康を損ねる。原告らの蒙る不
利益は、単なる不利益ではすまされない、人道上も許されない事態となっているの
であります。家庭生活を壊滅的に破壊し、原告もその家族の健康をも失わせ、生命
についてまで奪われかねない配転命令は、これをどうみても適法視する理由は,全
く見出し難い。
各論点について,最終準備書面において詳述しているところであり,十分にご理
解とご検討を願いたいと思います。
最後に,40年に亘る裁判官経験を経て,最高裁判事を退官された谷口正孝元判
事は「裁判における判断基準」と題する論文で「裁判官の判決は,純粋に知的な認
識作用の所産ではなく,実はその中に裁判官の意欲,意志,価値判断が含まれてお
り,これが実質的な判断基準として作用している」ということを肯定して,「それ
だけでは恣意に終わる危険があり,これを防止するのは,その判断基準を憲法の要
請に従うことによって実現することができる」という趣旨を述べておられます。
いま裁判所に望みたいことは,「人間として憲法の価値に従った,良心をかけた
其人格全部の発露として,先ず結論を生む。然る後,之に理智の批判を加え,法治
主義の要請に背かざらんことを期する」(末廣巌太郎)との態度で,この事案に臨
んでいただきたい。将に,本件配転命令は矩をこえているのであります。矩をこえ
ているとの認識において,私たちは裁判所と共通の認識をもつと確信するものであ
ります。
以上
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