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【主文】1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
【事実及び理由の要旨】
第1 事実の概要
本件は、平成14年7月1日付け又は同年8月1日付けで、北海道、宮城県、
山形県、群馬県、新潟県等から首都圏に配置転換(以下「配転」という。)さ
れた原告らが、原告らに対する配転は、@労働契約による勤務場所及び職種の
限定に反する、A配転命令権を濫用して行われたものである、などにより無効
であるとして、口頭弁論終結時における勤務先で勤務する労働契約上の義務が
ないことの確認を求めるとともに(口頭弁論終結時に定年退職となっている原
告2名を除く。)、不法行為に基づく慰謝料(原告ら1人につき各300万円)
の請求をした事案である。
原告らに対する配転は、被告らが、人件費削減を目的として、業務の大幅な
アウトソーシングと雇用形態等の多様化を内容とする構造改革を立案し、51
歳以上の社員に対し、@従前の業務の外注委託先となる新会社(賃金は15パ
ーセントから30パーセント減額となる。)に移籍して従前と同様の業務を担
当するか、A被告らに在籍し続けるか、を選択させたことに起因するものであ
る。原告らは、いずれもAを選択した結果、首都圏に配転されたものである。
第2 主要な争点
1 原告らと被告らとの間で、勤務場所や職種を限定することが労働契約の内容
となっていたか
2 本件各配転は被告らの配転命令権を濫用して命じられたものか
3 本件各配転は原告らに対する不法行為か
第3 当裁判所の判断
1 争点1について
原告らが、電電公社や被告らとの間で、勤務場所や職種を限定する旨の合意
をしたことを直接示す証拠はない。
かえって証拠等によれば、職員(社員)の配転について、電電公社就業規則
51条は「職員は、業務上必要があるときは、勤務局所又は担当する職務を変
更されることがある」と、被告会社就業規則60条(被告ME就業規則58条
は同内容の規定である。)は「社員は、業務上必要があるときは、勤務事業所
又は担当する職務を変更されることがある」と規定していると認められるので
あって、原告らについてのみ、これらの就業規則の適用対象外となると解すべ
き根拠はないから、被告らが、原告らの同意を得ずに配転を行ったとしても違
法とはいえない。
2 争点2について
(1)原告らに対する配転は、構造改革により、原告らが従事していた業務が新
会社に外注委託されたことを契機とするものである。
本件構造改革による業務の外注委託は、被告らにおける原告らの担当業務
を被告らから失わせるものであるから、業務の外注委託により従前の担当業
務がなくなった場合には、その結果として、それまでとは異なる職務に従事
せざるを得ないことは当然であるし、その際に、従前の勤務場所における配
転が種々の事情により困難である場合に、遠隔地への配転が余儀なくされた
としても、そのことを直ちに不当といえない場合かおることも、やむを得な
いところである。
(2)そこで、本件構造改革の合理性、必要性についてみると、中期経営改善施
策の実施によっても、被告会社の業績が大きく改善しなかったことや、被告
MEの収益が大幅に悪化し続けていたことからすれば、収益構造の大幅な転
換を目指すことを内容とする本件構造改革が、被告らにとって経営上極めて
重要な施策であったであろうことは明らかである。
そして、固定電話による収入が減少傾向にあったこと、地方圏エリアにお
ける収支状態は良好でなく、地方圏エリアでは社員の賃金も地場賃金より高
水準であったことからすれば、被告会社が、収支構造の改善を図る施策とし
て、固定電話に関する定型業務及び地域密着型の業務を、賃金水準を地場賃
金並みとする新会社に移行させ、被告会社の労働力は今後需要が見込まれる
IP・ブロードバンドビジネスに集中させるべく、業務の外注委託と雇用形
態・処遇体系の多様化を柱とする本件構造改革を実施したことも、十分合理
的な判断である。また、被告MEについても、従前の収入の大部分を占めて
いた被告会社等からの受託収入が減少し続けていたことからすれば、被告M
Eが、一般市場向けめ事業以外の事業を新会社に外注委託したことについて
も、特段不合理であるとは解されない。
(3)以上のとおり、本件構造改革には、経営上の合理性、必要性が認められる
ものである。そうすると、本件構造改革による新会社への業務の外注委託に
より、被告会社には原告らの担当業務がなくなったのであるから、担当業務
がなくなった原告らが配転の対象となることはやむを得ない。そうである以
上、被告らからは、既に従前原告らが従事していた職務がなくなっている以
上、原告らの配転の業務上の必要性を検討する際に、配転が余人をもって替
え難いといった高度の必要性が求められるべきものではないことはもとよ
り、労働力の適正配置、業務の能率推進、労働者の能力開発、勤務意欲の高
揚、業務運営の円滑化といった点で求められる業務上の必要性についても、
従前従事していた職務が会社内に存在していた場合と比して、より緩やかに
判断されることはやむを得ない。そして、被告らは、いずれも、今後、収益
性が商いIT・ブロードバンドビジネスを強化すべく、首都圏の法人営業を
強化しようと企図したものであって、その企図には合理性があると考えられ
ることからすれば、地方圏で従事すべき業務がなくなった原告らを首都圏エ
リアに配転したことには、一定の合理性が認められる。
(4)原告ら個別に事情をみると、本仲冬配転が、余人をもって替え難い配転で
あったといえないことは明らかである。しかし、原告らの担当する職務が外
注委託され、それまで従事していた職務が被告らになくなった以上、原告ら
は他の職務に就くほかないのだから、原告らが必ずしもその適性が高いとま
ではいえない職場に配置されたとしてもやむを得ない。これを原告飯野につ
いてみると、原告飯野は売掛金管理、電話による苦情対応等の職務経験を有
していたところ、本件配転により法人営業の担当とされているが、原告飯野
の新たな職務は、法人営業であるというものの、その職務内容は、顧客規模、
販売額も大きくないし、特に専門的知識等が求められる職務ではない。被告
会社も、原告飯野が苦情対応等による接客経験があることをふまえた上で配
転を行ったと認められるから、被告会社が、配転に際し、その適正につき考
盧していないといえるものでもない。この点は、他の原告らについても同様
である。このように、被告会社は、原告らの配転に際してはその適性につき
必要と考えられる検討をしていると認められ、その配転先がおよそ適性がな
い職場であったとも認められないことも併せると、本件各配転についての業
務上の必要性を否定することはできない。
(5) 配転に業務上の必要性が存する場合でも、配転命令が他の不当な動機・目
的をもって行われたものであるときは、配転命令権の濫用であり、その配転
は無効である。
まず、本件構造改革による雇用形態の選択制度が、その内容、手法におい
て、不当かどうかを検討する。 本件構造改革による雇用形態の選択におい
て、満了型を選択した場合の不利益は、これまで事実上勤務場所や職種に変
更がなかったものが変更の可能性が生じるというものであり制度的には変わ
りがなく、他方、繰延型又は一時金型を選択した場合には、賃金は下がるけ
れども、勤務湯所の限定や定年後の勤務継続が確保されるという有利な面が
あり、賃金の減額についても、減額された賃金も各地域の類似業種の賃金よ
りは高く、激変緩和措置もあるから、不利益が大きすぎるとまではいえない。
雇用形態の選択は、あくまで社員の自由意思によるものである。そして、本
件構造改革には、合理性、必要性が認められ、その必要も大きかったと認め
られることは前記のとおりであり、このほか、本件構造改革については、被
告らの社員の圧倒的多数が組織するNTT労働組合(組織率99パーセント
以上である。)が了承していることも併せて考えると、本件構造改革による
雇用形態の選択制度は、その内容や手法が不当であるとは認められない。
また、原告らは、本件構造改革には、就業規則の不利益法理や、整理解雇
の制限に係る法理の潜脱目的があるとも主張するが、いかなる雇用形態・処
遇体系を選択するかは、個々の社員の自由意思に委ねられ、繰延型又は一時
金型を選択しないことも可能であって、当然に退職・再雇用により賃金が減
額されることになるのではない。雇用選択制度の運用の実態をみても、繰延
型又は一時金型を強制した事実も認められない。したがって、個々の社員の
同意の有無に関わりなく変更された就業規則が適用されるかどうかが問題と
なる就業規則の不利益変更の法理が適用される場合とは異なる。また、繰延
型又は一時金型を選択した場合の労働条件も合理性があると認められるので
あるから、この点でも、就業規則の不利益変更の法理の潜脱とはいえない。
整理解雇の法理の潜脱という点については、前記のとおり、退職・再雇用を
選択するかどうかは自由意思によるものであるうえ、そもそも、雇用形態選
択により退職・再雇用を選択した場合には、再雇用されることが確保されて
いるのだから、労働者としての地位を完全に失う整理解雇とは全く状況が異
なり、整理解雇の法理の潜脱を考える余地はない。原告らは、本件構造改革
は、実質定年50歳制を企図するものであるとも主張するが、前記のとおり
いかなる雇用形態・処遇体系を選択するかは社員の自由意思に委ねられてい
るうえ、上記のとおり、繰延型又は一時金型を選択しても、再雇用されるこ
とが確保されている以上、これが実質定年50歳制と同視し得る制度である
ともいえない。
以上によれば、本件構造改革や本件各配転に不当な動機・目的があったと
は認められない。
(6)次に、本件各配転が原告らに与えた不利益が原告らが甘受すべき不利益と
いえるか検討する。
どのような不利益が配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度の不利益とい
えるかは、労働者の具体的な不利益の内容、程度、その不利益を軽減するた
めに使用者側が採った措置に加え、労働者の不利益と配転についての業務上
の必要性との関係で定まるものと解されるが、これを本件各配転についてみ
ると、本件各配転が、余人をもって替え難い配転ではなかったことは既に説
示のとおりであるが、本件構造改革に基づく一連の施策が被告会社の経営上、
重要な施策と位置づけられ、これを実施する業務上の必要性も高かったと認
められることや、既に従事する職務が外注委託されていた満了型選択者すべ
てを、人員配置の余裕が少ない地方圏で再配転することが、首都圏における
IT・ブロードバンドビジネスの強化を図ろうとしていた被告会社にとって
現実的な選択肢であったとも解されないことからすれば、これらの者の多く
を首都圏に配転する必要性は高かったというほかない。
原告らは、いずれも、配転に具体的な支障を有していたとはいい難いし、
配転の結果、原告らに生じたという不利益も、主に原告本人や家族の寂しさ
や日常生活上の不便をいうものにすぎず、証拠上、子の監護養育や親の介護
に具体的な支障を生じたとまで認められる原告は存在しない。たとえば、原
告久保についてみても、その主張する不利益のうち、実母や実弟の介護や、
海外留学をしている娘への仕送りに支障が生じたとの点については、証拠上
事実とは認められず、結局、同人がいう不利益は、単身赴任を強いられたこ
とによる孤独感をいう以外には、先祖代々維持してきた田圃の管理に困難が
生じるという程度のものをいうにすぎない。この点は、他の原告らについて
も、概ね同様である。もっとも、上記の程度の不利益であっても、可能な限
り避けることが望ましい不利益であることはいうまでもないところである
が、我が国の労働者の労働環境に照らし、長期間雇用される間において、単
身赴任や遠距離通勤を余儀なくされる時期が生じたとしても、そのことのみ
で配転が不当とは解されないことからすれば、原告らに認められる不利益の
程度が配転に伴い生じることが想定される不利益の中でも大きなものである
とは解されない。
そして、本件において、移行対象業務に従事していた原告らを配転する必
要性は高く、その配転先として、首都圏が候補とされたことにも業務上の必
要性が認められることからすれば、原告らに生じた前記の程度の不利益は、
配転に伴い労働者が通常甘受すべき程度の不利益というほかなく、これらの
不利益を根拠として、具体的に行使された配転命令権を権利の濫用として無
効とするには足りないというほかない。
(7)以上によれば、本件各配転には、いずれも業務上の必要性が認められ、本
件各配転が不当な動機・目的をもって行われたとも、原告らに対し通常甘受
すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであったとも認められず、
本件各配転が、配転命令権を濫用して行われたものとは認められないから、
原告らの請求は理由がない。
3 争点3について
本件各配転は無効とはいえないから、不法行為と理由とする原告らの請求は
いずれも理由がない。
第3 結論
よって、主文のとおり判決する。
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